前回の投稿で海外メディアからほとんど“無視”されてしまったと書いた「南京の真実」ですが、完全に無視されているわけではないようです。というのも、韓国の電子英字紙The Seoul Timesが先週の水曜日8日にこの映画に触れた論説を発表したからです。
http://theseoultimes.com/ST/?url=/ST/db/read.php?idx=8225電子新聞ということで、全文の紹介はしませんが、「石原の日本に2016年五輪開催させるな」という見出しで、2016年のオリンピック開催候補地である東京都の石原慎太郎知事を批判する内容になっています。具体的には1990年に『プレイボーイ』誌のインタビューで南京事件を「中国人が作り上げたお話」と発言したこと、2001年『週刊女性』誌で閉経後の女性が生きているのは「無駄で罪」と語ったこと、そして、有名な「三国人」発言などを取り上げて、石原都知事を「反韓・反中感情を植え付ける危険な一匹狼」、「露骨な歴史修正主義者」、「ナショナリスト」としています。
そうした脈絡の中で都知事を攻撃する材料の1つとして、「南京大虐殺を誤った歴史(観)にもとづく中国のプロパガンダと主張する映画」「南京の真実」に賛同していることを挙げています。「歴史修正主義者」や「ナショナリスト」といった上に引用した石原都知事を評する言葉は、これまでにも「南京の真実」関係者を形容するために、たびたび用いられてきたものです。これまで欧米メディアの記事を紹介してきましたが、今回の論説で、韓国メディアもこの映画に対して否定的な眼差しを向けていることが明らかになったといえるでしょう。もっとも、韓国のメディアといっても、英字紙なので、読者は欧米メディアのそれとある程度、重なっているでしょう。また、これ一件で一国のメディアの論調を語るわけにもいきませんが。
さて、今回の本題としては、一昨年(2007年)12月6日付のイギリスのTimes紙の記事を試訳を添えて紹介します。
南京事件70周年を控えた時期に発表されたものの、これまで見落としていました。
戦時下の人間がどれほど邪悪になるかを描いた映画に興味があるなら、日本による南京での大虐殺から70周年の今年(2007年)は映画的になかなかの豊作だろう。
1937年12月に大日本帝国軍が中国東中部の港町、南京を苛烈に占領したことを記念して、10本を下らない映画が制作されている。そんな突然の制作ブームを多くの日本人は国際的な日本叩きの高揚と見ている。米国や中国製作の映画を含む大多数は、15万から20万人の中国人が虐殺され、何万人もの女性が強姦されたとする広く受け入れられた見方に従っている。それらの映画の中、日本製作の「南京の真実」と題するものだけは異議を唱えて、死者はなかったとする。
水島総の映画に見られる大虐殺を否定する、こうした立場は、この監督独自のものではない。そして、このことが実は、中国人やアメリカ人がこれほどの熱をもって映画を制作する理由になっている。水島は、しっかりした史的証拠があるにもかかわらず、1937年の恐るべき事件はまったくなかったと信じる日本人グループの1人である。
南京(事件)否定論者は、そうした事件は中国が考え出したプロパガンダで、暗憺たる当時から今日まで長年、日本を責めるための道具にされてきたと主張する。これは、熱狂的な右翼が支持する見方である。彼ら右翼は「街宣車」から耳をつんざく大音量で超国家主義的な音楽を流して、東京を回っている。
しかし、多くの日本人を困惑させるのは、社会の主流に属する人々の間に見られる否定論である。
この出来事をどのように(また、どの)学校教科書で教えるかという問題は長年、政治的な火種になっていた。今年すでに与党自由民主党の国会議員100人が連盟を結成。南京大虐殺を完全な捏造として非難し、誰も殺害されなかったという彼らの「絶対の確信」を宣伝している。
「南京の真実」を主に、これだけ題名入りで取り上げています。第1部「七人の『死刑囚』」がまだ完成していなかったということもあって、映画そのものに対する評価は示されていません。しかし、南京事件(記者のいう「広く受け入れられた見方」に従えば、「15万から20万人の中国人が虐殺され、何万人もの女性が強姦された」事件) をなかったとする映画の趣旨に対しては、批判的な態度を示しています。それは、水島監督の主張を紹介する中で、「しっかりした史的証拠があるにもかかわらず」という文句を入れていることから分かります。
水島監督や映画の主張を一言でいえば、南京事件「否定論」となりますが、この「否定論」が「街宣車」を使って活動する「右翼」団体と一部の(しかし「与党」の)「国会議員」によって支持されていると書かれています。記事ははっきりした言葉で書いていませんが、文脈からは、前者の「右翼」団体と映画との関係を暗に示唆しているような印象を受けます。しかし、実際は、映画の賛同者に少なからぬ政治家が混じっていることからも明らかなように、むしろ、後者の「国会議員」との関係が強いと思われます。
ちなみに、最後に取り上げられている「自由民主党の国会議員100人」による「連盟」は、2007年6月19日に「総括記者会見」を開いた「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の「南京問題小委員会」を指すと考えられます。本当に「100人」もの議員が加わっていたかどうかは、分かりませんが。
冒頭の方で、一連の南京事件関係映画の制作に「多く」の日本人が「国際的な日本叩きの高揚」を見ているとありますが、自分の実感では、とてもそうは思えません。それらの映画制作について知っている日本人自体、そんなに「多く」ないような気がします。また、記事は一連の映画制作の理由を日本における「否定論」の存在に帰しています。しかし、海外で「否定論」が映画人を動かすほどの影響力を(良くも悪くも)もっているとも思えません。