一昨日、Independent紙の記事を紹介しましたが、昨日、同じIndependentが南京事件を取り上げた記事を発表しました。 2日続けて同じ新聞で同じ主題の記事が発表されたことになります。
http://news.independent.co.uk/world/asia/article3226375.eceここでも「南京の真実」のことや水島監督の話が書かれていますので、試訳を交えて記事を紹介します。
なぜ今、この質問をするのか?
来週は悪名高い南京レイプから70周年を迎える。日本兵が当時の中国の首都で強姦や殺人の限りを尽くした事件である。現代になって、この事件について書き記した最も有名な著作家であるアイリス・チャンは、事件を「忘れられたホロコースト」と呼んだ。その大虐殺を扱った新作映画が、アメリカ、ドイツ、中国で約10本もできる。その中には、「コン・エアー」の監督サイモン・ウェストが指揮する製作費5300万ドルの「紫金山」がある。今年、すでに中国で公開された「南京」は、これまでで最も多くの中国人が見たドキュメンタリー映画といわれている。
南京で何が起きたのか?
議論の余地のない、ほぼ唯一の事実は、1937年12月13日に戦闘に勝利した日本軍が、この町に突入したということである。その後、3ヶ月にわたり、幾千、幾万人もの女性や少女が強姦され、男性は銃剣で責め苛まれ、殺戮され、捕虜は無差別に掃討されて、30万人の人々が(日本)兵に殺害された、と中国は言っている。
町にいた若干の欧米人の目撃証言が、この主張を裏付けると思われる。アメリカ人宣教師ミニー・ヴォートリンは日記に「おそらく、ありとあらゆる罪業が今日、この南京で行われたであろう」と記している。連合人権協議会(United Human Rights Council)は、これを「第2次世界大戦中を通して、ヨーロッパ戦線でも太平洋戦線でも最悪の残虐行為」と呼ぶ。
一方、日本はどう言っているか?
日本の新国粋主義者(ネオ・ナショナリスト)は上記の主張に異論を唱え、死傷者数は中国の戦時中のプロパガンダにより水増しされた、としている。日本の歴史家の大多数や外国の多くの学者は現在、30万人という数字を疑問視している。一部の狂信的な新国粋主義者や学者、政治家は、不法殺害は1人もなかったと主張する。ドキュメンタリー映画監督、水島総は、「大虐殺の証拠は捏造されたものだ」と言う。
水島は自分の映画「南京の真実」を公開しようと準備を進めている。この映画は、南京侵攻を指揮したかどで有罪となった松井石根大将を含む太平洋戦争中の日本の指導者は、英雄だったと主張するものになる。最近のインタビューの中で、彼はこれらの人物を「イエス・キリスト」に譬えている。
なぜ、この事件が今、これほどの摩擦を招くのか?
日本で歴史が正しく理解されていないことが長年、日中関係を根本から脅かす要因になっていた。自分たちの国を荒らした15年間の償いを、東京(日本政府)はきちんと果たしてこなかった、と大多数の中国人は感じている。日本の指導者層が繰り返し(戦争責任を)否定することで、中国人の主張の正しさが証明されている。例えば、小泉純一郎元首相のもとで文部科学大臣を務めた中山成彬を含む、12人の政治家が水島の映画を支持している。
日本の戦争犯罪に対する北京(中国政府)の公式の方針は最近まで、日本の援助を必要とする中国の事情により、抑えられたものだった。しかし、中国がアジアで力を誇示するにつれ、方針は硬化しつつある。一方、日本のナショナリストは、巨大な国をまとめるために、北京政府がナショナリズムを喧伝し、反日感情を煽っている、と非難する。
こうした問題にもかかわらず、両国は経済提携を解くことも、世界で最も重要な2国間関係の発展に終止符を打つこともしていない。しかし、数年前に反日暴動が中国で突然、起こり、緊張が顕在化した。こうしたことが2度とないと断言できる者は、ほとんどいない。
なぜ問題が解決しないのか?
現代の中国という国家の成立にとって、大虐殺が中心となる位置を占めているために――共産党は日本軍国主義から国を守ったと主張している――、その記憶が中国人の中に鮮明に残っている。「日本から何を連想するか?」と聞くと、中国の大学生は決まって「南京(事件)」を挙げ、これが最も多い回答になる。他方で、東京が(南京事件を)糊塗したり否定したりすることで、傷口が開いたままであることが確かになっている。
小泉首相は東京の靖国神社に繰り返し参拝し、中国の憤激を買った。この神社は、日本を戦争へ導いた人々をまつっている。その後任の安倍晋三は、長らく与党、自由民主党の地下牢につながれていた、歴史を否定したり糊塗する人々を解き放った。歴史の「再解釈」を主張する修正主義者に、彼の内閣は支配されていた。安倍自身、太平洋戦争中に日本が国としてアジアで幾千、幾万人の性奴隷を駆り集めた事実はないと言って、騒動を引き起こした。福田康夫現首相が南京を訪れ、公式に謝罪すれば、(日中関係を)悪化させる要因を永遠に取り除けるだろうという人が多いが、その可能性はないに等しい。
南京が話題になる他の理由は?
日本と違って、ドイツはますます果敢に自国の過去を調べようとしており、「南京の善人」ことジョン・ラーベという人物に興味を引かれている。彼はナチの現地支部を主宰していたが、25万の人命を救ったといわれる国際安全区の代表となった。
ラーベは大虐殺の目撃者の中で最も有名な人物だったかもしれない。子どもや老女が繰り返し強姦された挙句に殺される様を数週間、見て、苦しみに「言葉を失った」と日記に記している。彼を取り上げた新作映画が2本、作られる。スティーヴ・ブシェミが出演するものと「ジョン・ラーベ 南京のシンドラー」である。
日本で、これらの映画を見る人はいるか?
今のところ、日本での配給元は見付かっていない。「ジョン・ラーベ 南京のシンドラー」の共同ディレクター、アネッテ・バウマイスターは、日本の公共放送局(NHK)から、この主題で独自の映画を作ると聞かされた、と話す。「ひょっとしたら、彼らがいつか作るのかもしれない」
次に何がある?
反日感情が中国で燃え上がりそうである。ヨーロッパやアメリカから悪評が上がることも確かである。それは、東京も感じていることで、政府の坂場三男報道官は「非常にデリケートな問題であるので、映画監督たちによって、感情的な良からぬ反応が引き起こされないよう願っている」と述べた。
坂場は、中国とともに問題を「非政治的に」検討する共同研究会によって、戦争中の出来事をめぐる解釈の重大な違いがせばまることを願っている。「この研究会にたいへん期待しているので、映画によって専門家の作業が困難にならなければと思っている」
では、否定論者はどうだろう?「敵に包囲されているという彼らの強迫観念が強まるだろう」と上智大学で政治学を研究する中野晃一は言う。水島はすでに2本の続編映画も計画している。第2作、第3作に何が求められるだろうか?次のような鍵となる質問に答えて、水島はヒントを示す。大日本帝国軍はいかなる戦争犯罪も犯さなかったのか?彼は「決してない」と答える。「戦争では常に、一部の個人が残虐行為を行うだろう。しかし、日本軍が組織的に戦争犯罪を働いただろうか?そんなことは絶対にない」
日中が南京で合意に達する日は来るか?
はい……
・ 歴史の問題を別にすれば、両国関係はますます強くなっている。事実、中国は昨年、日本の最大の貿易相手国になった。
・ この関係が順調に続くと、万人のためになる。過去の出来事を覚えている世代は徐々に死に絶える。
・ インターネットにより両国の若者は大虐殺について、かつてないほど多くの情報を得ることができる。
いいえ……
・ 日本では、修正主義者が政治や教育の分野で影響力を増しており、どのように出来事を大衆に示すか操作している。
・ ナショナリズムの強まりから、双方はさらに頑なになり、感情がいっそう高ぶる。
・ 議論が大衆文化に浸透した結果、過去の出来事に対する釣り合いの取れた学術研究がほとんど不可能になってしまった。
当然、前回の記事と重複しているところがありますが、新しい情報もあります。 例えば、前回の記事では「南京の真実」が3部作になることを知っている様子は見えなかったですが、今回は、 「水島はすでに2本の続編映画も計画している」ことを明らかにしています。
ジョン・ラーベを取り上げた映画が、スティーヴ・ブシェミが出演する「ジョン・ラーベ」と別に、もう1本あることは初耳でした。その「ジョン・ラーベ 中国のシンドラー」について調べたところ、劇場用映画でなく、ドイツの公共放送局ZDFでテレビ放映するためのドキュメンタリーのようです。
http://www.zdf-enterprises.de/en/john_rabe_the_schindler_of_nanjing.85.htm?template=d_zdfe_program&skip=14&sort=sheadline_de&order=asc&from=85&l=enディレクターの1人アネッテ・バウマイスターがNHKの話をしているのは、彼女が自作をNHKに売り込もうとしたときの反応を語ったもので、「独自の映画を作る」という言葉は、どうも断りの口実として受け取られているようです。
南京事件関連の映画に関する外務省の坂場三男報道官のコメントも記されており、日本の外務省も一連の映画に気をもんでいることが分かります。
南京事件を「第2次世界大戦中を通して、ヨーロッパ戦線でも太平洋戦線でも最悪の残虐行為」と評する団体として、United Human Rights Council(仮に「連合人権協議会」と訳した)が登場しますが、これはトルコのアルメニア人虐殺否定に抗議して発足した人権擁護団体で、国連人権理事会(United Nations Human Rights Council)とは無関係です。
「中山成彬を含む、12人の政治家が水島の映画を支持している」という1文から、「南京の真実」公式サイトの「賛同者一覧」(11月30日現在)を見たものの、中山元文科相の名前は見えませんでした。6月に「南京問題小委員会」総括記者会見を開いた「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の会長を務めているために、賛同者の1人と誤解されたのかもしれません。今回、改めて「賛同者一覧」を見たところ、国会議員の数が1月の製作発表当初の12人から16人に増えていました。新たに加わった賛同者の中には、元経済産業相で、「中国の抗日記念館から不当な写真の撤去を求める国会議員の会」(6月13日付Reuters記事参照)会長の平沼赳夫衆院議員もいます。そのため、閣僚経験者を含む十数人の政治家がこの映画を支持していることに、変わりはありません。
「南京の真実」に対する評価はやはり厳しいもので、記事の表現を使って端的にいえば、「一部の狂信的な新国粋主義者」の映画ということになるでしょう。しかし、すでに指摘したとおり、閣僚経験者を含む16人の国会議員がこの映画に賛同していること、そして、彼らが選挙により日本国民の代表として選ばれているということもまた、事実です。
なお、今回のIndependentの記事の執筆者で、その前日の同紙の記事の共同執筆者の1人でもあるデービッド・マクニール記者の記事が12月6日付でJapan Timesに発表されました。
また、この記事の増補版がJapan Focusに投稿されています。
http://japanfocus.org/products/details/2599勝手ながら、このブログでは日中以外の活字メディアの報道のみを紹介することにしているので、Japan TimesおよびJapan Focusの記事は取り上げません。しかし、Independentの2つの記事を1つに組み合わせ、かつ、これらを補うものとして、一読の価値があると思います。