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2007/12/07

大疑問 なぜ日中は「南京レイプ」で緊張するか?(Independent 07/12/06)

一昨日、Independent紙の記事を紹介しましたが、昨日、同じIndependentが南京事件を取り上げた記事を発表しました。 2日続けて同じ新聞で同じ主題の記事が発表されたことになります。

http://news.independent.co.uk/world/asia/article3226375.ece

ここでも「南京の真実」のことや水島監督の話が書かれていますので、試訳を交えて記事を紹介します。

なぜ今、この質問をするのか?

来週は悪名高い南京レイプから70周年を迎える。日本兵が当時の中国の首都で強姦や殺人の限りを尽くした事件である。現代になって、この事件について書き記した最も有名な著作家であるアイリス・チャンは、事件を「忘れられたホロコースト」と呼んだ。その大虐殺を扱った新作映画が、アメリカ、ドイツ、中国で約10本もできる。その中には、「コン・エアー」の監督サイモン・ウェストが指揮する製作費5300万ドルの「
紫金山」がある。今年、すでに中国で公開された「南京」は、これまでで最も多くの中国人が見たドキュメンタリー映画といわれている。

南京で何が起きたのか?

議論の余地のない、ほぼ唯一の事実は、1937年12月13日に戦闘に勝利した日本軍が、この町に突入したということである。その後、3ヶ月にわたり、幾千、幾万人もの女性や少女が強姦され、男性は銃剣で責め苛まれ、殺戮され、捕虜は無差別に掃討されて、30万人の人々が
(日本)兵に殺害された、と中国は言っている。

町にいた若干の欧米人の目撃証言が、この主張を裏付けると思われる。アメリカ人宣教師ミニー・ヴォートリンは日記に「おそらく、ありとあらゆる罪業が今日、この南京で行われたであろう」と記している。連合人権協議会(United Human Rights Council)は、これを「第2次世界大戦中を通して、ヨーロッパ戦線でも太平洋戦線でも最悪の残虐行為」と呼ぶ。

一方、日本はどう言っているか?

日本の新国粋主義者(ネオ・ナショナリスト)は上記の主張に異論を唱え、死傷者数は中国の戦時中のプロパガンダにより水増しされた、としている。日本の歴史家の大多数や外国の多くの学者は現在、30万人という数字を疑問視している。一部の狂信的な新国粋主義者や学者、政治家は、不法殺害は1人もなかったと主張する。ドキュメンタリー映画監督、水島総は、「大虐殺の証拠は捏造されたものだ」と言う。

水島は自分の映画「
南京の真実」を公開しようと準備を進めている。この映画は、南京侵攻を指揮したかどで有罪となった松井石根大将を含む太平洋戦争中の日本の指導者は、英雄だったと主張するものになる。最近のインタビューの中で、彼はこれらの人物を「イエス・キリスト」に譬えている。

なぜ、この事件が今、これほどの摩擦を招くのか?

日本で歴史が正しく理解されていないことが長年、日中関係を根本から脅かす要因になっていた。自分たちの国を荒らした15年間の償いを、東京
(日本政府)はきちんと果たしてこなかった、と大多数の中国人は感じている。日本の指導者層が繰り返し(戦争責任を)否定することで、中国人の主張の正しさが証明されている。例えば、小泉純一郎元首相のもとで文部科学大臣を務めた中山成彬を含む、12人の政治家が水島の映画を支持している。

日本の戦争犯罪に対する北京
(中国政府)の公式の方針は最近まで、日本の援助を必要とする中国の事情により、抑えられたものだった。しかし、中国がアジアで力を誇示するにつれ、方針は硬化しつつある。一方、日本のナショナリストは、巨大な国をまとめるために、北京政府がナショナリズムを喧伝し、反日感情を煽っている、と非難する。

こうした問題にもかかわらず、両国は経済提携を解くことも、世界で最も重要な2国間関係の発展に終止符を打つこともしていない。しかし、数年前に反日暴動が中国で突然、起こり、緊張が顕在化した。こうしたことが2度とないと断言できる者は、ほとんどいない。

なぜ問題が解決しないのか?

現代の中国という国家の成立にとって、大虐殺が中心となる位置を占めているために――共産党は日本軍国主義から国を守ったと主張している――、その記憶が中国人の中に鮮明に残っている。「日本から何を連想するか?」と聞くと、中国の大学生は決まって「南京
(事件)」を挙げ、これが最も多い回答になる。他方で、東京が(南京事件を)糊塗したり否定したりすることで、傷口が開いたままであることが確かになっている。

小泉首相は東京の靖国神社に繰り返し参拝し、中国の憤激を買った。この神社は、日本を戦争へ導いた人々をまつっている。その後任の安倍晋三は、長らく与党、自由民主党の地下牢につながれていた、歴史を否定したり糊塗する人々を解き放った。歴史の「再解釈」を主張する修正主義者に、彼の内閣は支配されていた。安倍自身、太平洋戦争中に日本が国としてアジアで幾千、幾万人の性奴隷を駆り集めた事実はないと言って、騒動を引き起こした。福田康夫現首相が南京を訪れ、公式に謝罪すれば、
(日中関係を)悪化させる要因を永遠に取り除けるだろうという人が多いが、その可能性はないに等しい。

南京が話題になる他の理由は?

日本と違って、ドイツはますます果敢に自国の過去を調べようとしており、「南京の善人」ことジョン・ラーベという人物に興味を引かれている。彼はナチの現地支部を主宰していたが、25万の人命を救ったといわれる国際安全区の代表となった。

ラーベは大虐殺の目撃者の中で最も有名な人物だったかもしれない。子どもや老女が繰り返し強姦された挙句に殺される様を数週間、見て、苦しみに「言葉を失った」と日記に記している。彼を取り上げた新作映画が2本、作られる。スティーヴ・ブシェミが出演するものと「ジョン・ラーベ 南京のシンドラー」である。

日本で、これらの映画を見る人はいるか?

今のところ、日本での配給元は見付かっていない。「ジョン・ラーベ 南京のシンドラー」の共同ディレクター、アネッテ・バウマイスターは、日本の公共放送局(NHK)から、この主題で独自の映画を作ると聞かされた、と話す。「ひょっとしたら、彼らがいつか作るのかもしれない」

次に何がある?

反日感情が中国で燃え上がりそうである。ヨーロッパやアメリカから悪評が上がることも確かである。それは、東京も感じていることで、政府の坂場三男報道官は「非常にデリケートな問題であるので、映画監督たちによって、感情的な良からぬ反応が引き起こされないよう願っている」と述べた。

坂場は、中国とともに問題を「非政治的に」検討する共同研究会によって、戦争中の出来事をめぐる解釈の重大な違いがせばまることを願っている。「この研究会にたいへん期待しているので、映画によって専門家の作業が困難にならなければと思っている」

では、否定論者はどうだろう?「敵に包囲されているという彼らの強迫観念が強まるだろう」と上智大学で政治学を研究する中野晃一は言う。水島はすでに2本の続編映画も計画している。第2作、第3作に何が求められるだろうか?次のような鍵となる質問に答えて、水島はヒントを示す。大日本帝国軍はいかなる戦争犯罪も犯さなかったのか?彼は「決してない」と答える。「戦争では常に、一部の個人が残虐行為を行うだろう。しかし、日本軍が組織的に戦争犯罪を働いただろうか?そんなことは絶対にない」

日中が南京で合意に達する日は来るか?

はい……

・ 歴史の問題を別にすれば、両国関係はますます強くなっている。事実、中国は昨年、日本の最大の貿易相手国になった。

・ この関係が順調に続くと、万人のためになる。過去の出来事を覚えている世代は徐々に死に絶える。

・ インターネットにより両国の若者は大虐殺について、かつてないほど多くの情報を得ることができる。

いいえ……

・ 日本では、修正主義者が政治や教育の分野で影響力を増しており、どのように出来事を大衆に示すか操作している。

・ ナショナリズムの強まりから、双方はさらに頑なになり、感情がいっそう高ぶる。

・ 議論が大衆文化に浸透した結果、過去の出来事に対する釣り合いの取れた学術研究がほとんど不可能になってしまった。

当然、前回の記事と重複しているところがありますが、新しい情報もあります。 例えば、前回の記事では「南京の真実」が3部作になることを知っている様子は見えなかったですが、今回は、 「水島はすでに2本の続編映画も計画している」ことを明らかにしています。

ジョン・ラーベを取り上げた映画が、スティーヴ・ブシェミが出演する「ジョン・ラーベ」と別に、もう1本あることは初耳でした。その「ジョン・ラーベ 中国のシンドラー」について調べたところ、劇場用映画でなく、ドイツの公共放送局ZDFでテレビ放映するためのドキュメンタリーのようです。

http://www.zdf-enterprises.de/en/john_rabe_the_schindler_of_nanjing.85.htm?template=d_zdfe_program&skip=14&sort=sheadline_de&order=asc&from=85&l=en

ディレクターの1人アネッテ・バウマイスターがNHKの話をしているのは、彼女が自作をNHKに売り込もうとしたときの反応を語ったもので、「独自の映画を作る」という言葉は、どうも断りの口実として受け取られているようです。

南京事件関連の映画に関する外務省の坂場三男報道官のコメントも記されており、日本の外務省も一連の映画に気をもんでいることが分かります。

南京事件を「第2次世界大戦中を通して、ヨーロッパ戦線でも太平洋戦線でも最悪の残虐行為」と評する団体として、United Human Rights Council(仮に「連合人権協議会」と訳した)が登場しますが、これはトルコのアルメニア人虐殺否定に抗議して発足した人権擁護団体で、国連人権理事会(United Nations Human Rights Council)とは無関係です。

中山成彬を含む、12人の政治家が水島の映画を支持している」という1文から、「南京の真実」公式サイトの「賛同者一覧」(11月30日現在)を見たものの、中山元文科相の名前は見えませんでした。6月に「南京問題小委員会」総括記者会見を開いた「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の会長を務めているために、賛同者の1人と誤解されたのかもしれません。今回、改めて「賛同者一覧」を見たところ、国会議員の数が1月の製作発表当初の12人から16人に増えていました。新たに加わった賛同者の中には、元経済産業相で、「中国の抗日記念館から不当な写真の撤去を求める国会議員の会」(6月13日付Reuters記事参照)会長の平沼赳夫衆院議員もいます。そのため、閣僚経験者を含む十数人の政治家がこの映画を支持していることに、変わりはありません。

南京の真実」に対する評価はやはり厳しいもので、記事の表現を使って端的にいえば、「一部の狂信的な新国粋主義者」の映画ということになるでしょう。しかし、すでに指摘したとおり、閣僚経験者を含む16人の国会議員がこの映画に賛同していること、そして、彼らが選挙により日本国民の代表として選ばれているということもまた、事実です。

なお、今回のIndependentの記事の執筆者で、その前日の同紙の記事の共同執筆者の1人でもあるデービッド・マクニール記者の記事が12月6日付でJapan Timesに発表されました。

http://search.japantimes.co.jp/member/ff20071206r1.html

また、この記事の増補版がJapan Focusに投稿されています。

http://japanfocus.org/products/details/2599

勝手ながら、このブログでは日中以外の活字メディアの報道のみを紹介することにしているので、Japan TimesおよびJapan Focusの記事は取り上げません。しかし、Independentの2つの記事を1つに組み合わせ、かつ、これらを補うものとして、一読の価値があると思います。

2007/12/05

映画で南京大虐殺プロパガンダ戦争(Independent 07/12/05)

今月13日で日本軍の南京攻略からちょうど70年ということで、最近、海外のメディアによる南京事件関係の報道が増えている気がします。 それに伴い、「南京の真実」に関係する報道も少しずつ増えているのでしょうか。 今日、この映画のことを比較的大きく取り上げたイギリスのIndependent紙の記事を見付けたので、それを紹介します。

http://news.independent.co.uk/world/asia/article3223694.ece

歴史上、最も嫌悪すべきでありながら、議論の的になっている出来事の中、何が起きたか知りたければ、水島総に尋ねるのが1つの方法である。2万人から30万人の間のいずれかの人命が犠牲になったと推定される1937年の日本による当時の中国の首都占領に対して、水島は「徹底した調査」を加えたという。その結果として、不法殺害の件数を非常に明確な数字で示す。 すなわち、0と。

「大虐殺の証拠は捏造されたものだ。中国共産党のプロパガンダだ」と彼は説く。その根拠として、彼によれば改竄されている写真を多数、収録した本を見せ付ける。1枚の写真は、口にタバコをくわえた中国人の切断された頭部を写している。そのページを強調するため指で突きながら、「日本人は遺体にこのような残酷なことはしない。そういうことは我々の文化にない」と述べる。

水島の映画「
南京の真実」が映画館で上映されれば、世界はただちに彼の主張の是非を評価する機会を得るだろう。南京で起こった出来事については、1937年12月13日に(日本)帝国軍がこの都市に入城した、ほとんどその日からすぐに議論が始まり、以来、激しさを増すばかりである。

この、くすぶり続ける論争が大虐殺70周年に大衆娯楽の分野に及ぶことになった。米国、ヨーロッパ、中国資本の10本近い映画が再び南京の傷口に触れようとしている。どのような結果に終わるにしても、確かなことが1つある。それは、日本の新国粋主義者(ネオ・ナショナリスト)が2度目のプロパガンダ戦争に勝つ見込みは、ほとんどないということである。

昨日
(12月4日)中国の歴史学者が占領の犠牲者1万3000人分の名簿8巻を発表した。名簿には、犠牲者の名前、享年、性別、職業、住所、殺害に関与した日本軍の部隊と殺害方法が記されている。しかし、歴史学者の作業は映画監督のそれに比べると、それほど強い影響を与えることはないだろう。

水島が「
(南京の)真実」の製作にかける予算として噂される200万ドルは、例えば、中国で撮影されている「紫金山」の5300万ドルに比べると、小さく見える。日本の保守派が忌み嫌うアイリス・チャンのベストセラー『ザ・レイプ・オブ・南京』を原作とする米中合作のこの映画は、まさしく「シンドラーのリスト」のアジア版を目指している。

一方、香港のアートハウス系監督イム・ホーが3500万ドルで制作する「南京・クリスマス・1937」は、戦時の町に残り、日本軍から一般市民を守ろうとした外国人たちの奮闘を描く。映画賞受賞経験がある日本の俳優、香川照之と柄本明が「
ジョン・ラーベ」に出演する。このドイツ映画には、スティーヴ・ブシェミとウルリッヒ・トゥクール(「善き人のためのソナタ」)も出演。トゥクールは中国人一般市民を救ったことから、「中国のシンドラー」と呼ばれる、映画の題名となったナチ党員を演じる。ほかに中国映画界の有名どころが「南京!南京!」に出演する。

これらの映画に中国という国の手が、さまざまな形で、からんでいるという事実は、おそらく日本の新国粋主義者の疑念をかき立てるだろう。「中国は日本に対する世界の見方を操ろうとしている」と水島は言う。

北京は巧みにバランスを取らねばならない曲芸をしいられている。南京
(事件)は、日本人と国民党双方の打倒に成功した共産党による1949年以降の中国の創建神話の中で、中心となる位置を占めている。大衆文化の中では数十年間、無視されてきた出来事が、確実に忘れられずに残ることを、政府は願っている。同時に、衰弱する日本と対照的に国力を強める中、両国関係を損なうことは避けねばならない。

南京のおぞましい出来事がもはや
(日中)2国間の問題に留まらないことは、他国の映画監督が(事件に)関心を示し始めていることから、見て取ることができる。オリバー・ストーンが現在、南京映画の脚本を練っている。ロジャー・スポティスウッドは、大虐殺を目撃したイギリス人ジャーナリストを取り上げた苦海」の撮影を終え、編集等の作業に入っている。ビル・グッテンタグ、ダン・スターマン(「ツイン・タワーズ」)両監督の迫力あるドキュメンタリー「南京」は、すでに公表されている。

しかし、どれにもまして日本を欲求不満に陥らせるのは、カナダのウィリアム・スパヒック、アン・ピック夫妻のドキュメンタリーである。「忘れられなかった女性 アイリス・チャン物語
(「アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京」)は、南京(事件)を白日の下に引き出し、北米の華人の間で大虐殺を記憶するよう熾烈に呼びかけた本の著者に、焦点を当てている。3年前に自殺したチャンこそ、今回の新作映画の多くが製作されるきっかけとなった、それらの作品の守護聖人である。彼女の著書を日本の保守派は酷評した。誇張交じりのずさんな調査をし、――最大の罪として――真実と戦時中の中国のプロパガンダとを区別しなかったとして、彼女を非難した。

いずれにしても、すでにナショナリズムの気運が盛り上がる中国で、反日感情が燃え上がりそうである。さらなる悪評がヨーロッパとアメリカから上がることは必至だろう。

水島ら否定論者は、プロパガンダ戦争で、これほどまでの大攻勢に、どう立ち向かうのだろうか?上智大学で政治学を研究する中野晃一は次のように答える。「自分たちが包囲されているという彼らの強迫観念が強まるだろう。彼らは、[特に反日的な中国人による]包囲網のもと、自分たちだけが『真実』と『史実』を保っていると思っている。そして、『真実』を広く、正しく国際社会で、とりわけアメリカの観客に、広めさえすれば、それが優勢になっていくと思っているようだ。もちろん、勘違いしているだけで、結局、自分から深い苦境に陥ることになる」

これまでに紹介した大手の新聞記事の中で、「南京の真実」に対して最も辛辣な記事といっていいでしょう。 報道の客観性を保つために、多くの記事が映画に対する賛否の立場を鮮明にすることを避けてきましたが、この記事は他人の言葉の引用でなく、地の文ではっきりと「日本の新国粋主義者が2度目のプロパガンダ戦争に勝つ見込みは、ほとんどない」と断言しています(ただし、以前、紹介したTime誌の記事も「外部から見ている者で、彼(水島監督)の成功を予想する者は、稀である」と書いていましたが)。さらに、念を押すように、「結局、自分から深い苦境に陥ることになる」という中野晃一・上智大学准教授の批判的なコメントで記事は締めくくられています。もっとも、映画の成功を予想しない理由は明示されていません。

ここでも、「南京の真実」が3部作になったことは記されていません。 「改竄」写真を多数、収録しているとされる本を示しながら、「大虐殺の証拠は捏造」と説く水島監督の姿は、3月3日付のIndependentの記事の取材のために「日本文化チャンネル桜」を訪れたときのものかもしれません。

先月、カナダで公開されたアイリス・チャンの伝記映画の題名を「忘れられなかった女性 アイリス・チャン物語」と完成前の仮題を記しているところから見て、記事の内容がどこまで最新の情報にもとづくものか、疑問に感じる部分があります。 そのため、オリバー・ストーン監督による南京事件を題材とする映画の話も、本当に現在進行中のものなのか、すでに頓挫した過去のものなのか、判断するのが難しいです。

これまでに紹介した記事と比べて、今回の記事で目立っている点としてほかに、アイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ・南京』に対する日本の保守派の嫌悪感が生々しく書かれている点が挙げられるでしょう。 他の記事がアイリス・チャンとその著書に頻繁に言及しているという事実は、日本では想像できないほどの影響力を、彼女が海外で得ていることを、示唆していると思われます。記事の表現を借りれば、南京事件の記憶の「守護聖人」ともいうべき彼女を目の敵にする日本人の姿に、海外の読者は驚くかもしれません。

すでに述べたとおり、明らかに「南京の真実」に共感を示していない記事ですが、「中国で、反日感情が燃え上がりそうである。さらなる悪評がヨーロッパとアメリカから上がることは必至だろう」というくだりは、映画の製作趣旨の次の1文を彷彿とさせます。

反日、侮日意識が、同盟国の米国だけでなく、世界中の人々に定着しかねません。

もっとも、中国、欧米各国で反日感情が長きにわたって「定着」するとまで記者が考えているかどうかは、定かでありません。

2007/04/17

恐怖の否認というただれた傷(Independent 07/03/03)

今回は、イギリスのリベラル派新聞Independentの記事です(リンク先は、New Zealand Herald)。

http://www.nzherald.co.nz/section/2/story.cfm?c_id=2&objectid=10426719&pnum=0

首が切り落とされたり、内蔵を取り出された死体、溝に捨てられた赤ん坊の遺体、人骨の山から、こちらを見つめる目がくぼんだ頭蓋骨――百万、千万の死傷者が出たとされる身の毛もよだつ戦場から、もたらされた写真の数々は、恐怖の陳列場をなし、吐き気を催させる。

5分後には頭脳が麻痺し始め、10分たつと、この改装された倉庫の中の空気が静かで重々しく感じられる。まるで歴史の重みが戸を抜けてしみ込んでくるように。

新たに開館した中帰連平和記念館は、東京北郊で平凡な家々が並ぶ中にある。ここは年金生活者にして、チェコの作家ミラン・クンデラが言う、忘却に対する記憶の闘いを闘う1人の歩兵が管理している。

80才になる仁木ふみ子館長は、その生涯の多くを日本の保守派との闘いに費やしてきた。

「今は非常に危険な時期を迎えている。日本が戦時中に果たした役割が忘れ去られようとしている。」

同館の所蔵品の中核をなすのは、300人の元日本兵の証言である。中国抑留中に彼らは当地で犯した強姦、虐待、幼児殺害などの残虐行為を告白した。

日本軍が行った最も残忍な犯罪の数々を記録した図のビデオや証拠写真が図書館に保管されている。既に同館を焼き払うという極右の脅迫を受けており、年配の館員は先端の警備技術という不慣れな世界を学んでいる。

図書館の資料収集に携わった元兵士の絵鳩毅は、「これらのことは学校教科書に書かれていないだろう」と言う。証言の中には、中国人女性を犯して殺害した上に、その肉を配下の部隊とともに食べた曹長の話もある。

絵鳩は、中国人捕虜を使って新兵の銃剣訓練を行ったとも語る。「このような恐ろしいことが日常茶飯事だった。」

「今、人々は、これらのことはなかったと言っている。日本は臭いものに蓋をしようとしている。」

東京に入ると、右翼系のインターネット放送局「チャンネル桜」の事務所がある。ここには、戦争中の残虐行為を写した写真は、1枚もない。代わりに、天皇の肖像や戦死した日本兵にささげる詩歌と並んで、刀と日章旗が壁を飾っている。

2年前
(2005年)の開局以来、「桜」は次々とナショナリズム的な番組を少数の視聴者に向けて放送してきた。今、同局の社長は、史上、最も悪名高い戦争犯罪の1つである1937年の「南京レイプ」を捏造とするドキュメンタリー映画を、巨額の予算で監督しようと計画している。

水島総は言う。「南京
(事件)はまったくの嘘。中国のプロパガンダで、この国の左翼が支持している。」

水島によると、中帰連平和記念館の写真は捏造されたもので、絵鳩のような元日本兵は抑留中に「中国共産党」に「洗脳」され、同館に記録が残る戦争犯罪は起こっていないという。「これは完全に明らかなことで、証明してみせる。」

こうした見方は古くから日本の政界の一部に見られた。しかし、この映画は少なくとも12人の与党自民党および野党の国会議員、石原慎太郎東京都知事、大学教員の一団によって支持されている。さらに、製作者たちは、おそらく安倍晋三首相をここ数十年の首相の中で最も自分たちの世界観に近い指導者と見ている。

安倍は中国での戦争に関する歴史記述のあり方に公然と嫌悪観を示してきた。指導者となる以前には、南京事件を含む日本がアジアで犯した戦争犯罪に関する記述を縮小ないし削除する歴史教科書を支援する自民党の政治家グループの一員だった。

その教科書は南京レイプを「事件」と呼び、膨大な死傷者数の推計を斥けている。中国は30万人が死亡したと主張するが、日本の歴史修正主義者は0から4万人の間と見積もっている。

アイリス・チャンのベストセラー『
ザ・レイプ・オブ・南京』所載の彼の言う改竄写真を攻撃して、「これだけの死体がどこに処分されたのか?」と水島は尋ねる。

「ナチスはユダヤ人を殺すために炉を造らなければならなかったが、我々にはナチスのようなイデオロギーはなかった。南京や中国人を絶滅させようとはしていない。」

記述が不正確で、改竄された写真を使用しているとして批判されるチャンの著書は、強姦や略奪を「忘れられたホロコースト」と呼んだ。

南京の問題は依然として世界で最も重要な2国間関係の障害になっている。

最近の調査によると、中国の若者の80パーセント以上が日本と聞いて第1に連想するのは、南京レイプだという。ナショナリズムと政府のプロパガンダにより加熱する反日感情は、中国で着実に増大しており、一連の暴動や不買運動によって頂点を迎えた。そしてついに、北京と東京をして歴史の亡霊を鎮めるべく、共同研究を実施するに到らせた。

しかし、双方合わせて20人の有識者は苦戦を認めている。日本側の委員を務める北岡伸一教授は、「本当に難しいが、我々の間に横たわる溝を埋める何らかの道を見付けなければならない」と語る。

捏造という発言が北京の怒りを買っている。最近、外交部の姜瑜報道官は、大虐殺には「動かぬ」証拠があると語った。

ウディ・ハレルソンが出演する
(南京)レイプに関する米国の新作映画の公開が予定され、南京事件70周年を記念して、ほかに少なくとも6本の映画の製作が進められている。

北京はチャンの著書を下敷きに独自の映画を企画している。この動きを受け、日本の政治家は、彼らの言う迫りくる反日感情の波を迎え撃つために、自ら「勉強会」を結成したと発表した。

上述の企画が実現されるという見通しから、水島も行動に駆り立てられた。「歪められた歴史観が世界中に広まるのは許せない。反中国のためでなく、正しいことを正しく伝えたいだけだ。」

彼は、日本がアジアで犯した戦争犯罪に対する、あらゆる告発を拒絶する。そこには20万人の女性の性奴隷化や百万、千万の中国人、韓国人労働者の強制連行も含まれる。

「我々によって奴隷にされたということで、韓国人や中国人は体面を保とうとしている。しかし、彼らは親によって娼婦や奴隷として売られた。彼らはその身に起こったことを女々しく嘆き悲しんでいる。」

日本軍による中国での戦争犯罪について積極的に証言を行ってきた「中国帰還者連絡会」(中帰連)と、それら戦争犯罪の象徴といえる南京事件を、映画で否定しようとする水島監督の「日本文化チャンネル桜」とが対比されて取り上げられています。両者の主張は対立しているので、当然、どちらかの言い分を正しいとすれば、他方の言い分は間違っていることになるでしょう。しかし、記事はこの点に関し、判断を明示することに慎重です。

アイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ・南京』に関しては、「記述が不正確で、改竄された写真を使用している」とする批判を紹介しています。ここから、記者はチャンの著書を鵜呑みにしているわけではないという印象を抱きます。また、同書が南京事件をナチスによる「ホロコースト」に類比することに対して、両者の違いを指摘する水島監督の言葉も引用されています。

本題とは無関係なことですが、南京事件の死者を4万人とする秦郁彦氏に代表される日本で「中間派」などと呼ばれる立場も、この記事によれば、「修正主義」に入るそうです。

記事の終わりの方で「20万人の女性の性奴隷化」として「慰安婦」問題が取り上げられているのは、いうまでもなく、日本政府に公式の謝罪を求める慰安婦決議案が1月末に米国下院に提出され、この問題が国際的な関心を集めたためでしょう。ちなみに、記事の中で歴史教科書問題に対する安倍首相の立場が言及されていますが、慰安婦問題に対する首相の立場は一切、触れられていません。このことは、記事が書かれたのが、慰安婦徴集における強制性や日本政府が謝罪する必要を否定した3月5日の首相の発言以前だったためでしょう。