夏が終わり、「今夏以降」と言っていた「南京の真実」第2部の完成予定は「今秋以降」に変わってしまいました。その一方で、ビル・グッテンタグ、ダン・スターマン両監督のドキュメンタリー映画「南京」の上映会が福岡県大牟田市で開かれるとの情報がありました。
http://www.omuta-bunka-kaikan.or.jp/yo-10.htm場所は大牟田文化会館小ホール、10月31日(土)午後1時開場、前売券500円とのことです。
さて、今日はそのドキュメンタリー映画「南京」を主として取り上げたイギリスのTimes紙の記事を紹介します。
日付はTimes Onlineによると、2007年6月1日となっていますが、内容から見て、7月1日の誤りと考えられます。
あるアメリカの新作映画が今週、中国で公開されれば、日中間は長く、暑い夏を迎えることになるだろう。その映画は、1937年に日本軍が中国人兵士および一般市民を殺害した南京大虐殺を題材とする。
この映画を中国で上映するという決定によって――今年、中国国内での上映を許可された数少ない外国映画の1本になるだろう――、ハリウッドはアジアで最も熾烈な歴史論争に巻き込まれる。
中国人の反応は波乱含みで、北京と東京の外交官は気をもんでいる。両国の外交官は隣国間でのナショナリストの衝突を抑えようと努めている。
「火遊びをしている」とある外交官は言う。戦時中の過去をめぐる興奮から、中国で一昨年(2005年)反日暴動が巻き起こった。
新作映画にはウディ・ハレルソンやマリエル・ヘミングウェイが出演。俳優による朗読と凄惨な記録映像を組み合わせ、少数の欧米人が中国人難民を日本兵による強姦や殺害から保護したいきさつを語る。
映画はアメリカのサンダンス映画祭で批評家の賞賛を博した。しかし、中国の観客は映画の劇的な点を楽しむよりも、これにより感情を高ぶらせることが予想される。
(南京)大虐殺をめぐっては、すべてが議論の的にされている。この事件は今なお敏感な問題になっている。というのも、民間の歴史家や戦犯裁判の証人によれば、大量の強姦や処刑の命令および隠蔽には日本の皇族が関わっているからだという。
日本の超国家主義者は彼ら独自の映画を制作すると宣言している。おそらく映画は事件を、残念ながらいき過ぎもあったものの、対テロリスト作戦として描くものになるだろう。
先月(2007年6月)には日本の100人の国会議員が、東京の公文書によれば、2万人の人々「しか」殺害されていないと発言して、中国人の怒りを買った。「中国はプロパガンダのために数字を水増ししている」とある議員は非難する。中国外交部は、今回の声明は「無知」をさらけ出すものだとした。同部の報道官は、30万人が死亡したと断言している。
中国の温家宝首相が訪日して協調と共同の経済発展を強調してから間もなく、今回の応酬となった。しかし、今月(7月)の日本の地方選挙(参議院議員選挙)や秋の(中国)共産党党大会を前に両国の政治家は愛国心の高ぶりを利用しようとしている。
中国はビル・グッテンタグ、ダン・スターマン両監督に映画の一部のロケ撮影を許可した。そうすることで、この映画の企画を公認する形となった。
南京大虐殺を第2次世界大戦の真の始まりとする見方もある。これにより、日本の中国侵略は総力戦となり、西洋が日本の残酷さに直面するきっかけとなったからである。それは枢軸国による最初の大規模な残虐行為であった。
日本は1931年以来、中国で戦闘を続けており、昭和天皇の大本営は蒋介石率いる中国軍に対する心理的な決定打として、中華民国の首都である南京の攻撃を計画した。
軍隊は天皇の叔父の朝香宮が指揮。12月8日に城壁に囲まれ、一般市民50万人を擁する、この町を包囲した。5日後に町は陥落した。
最近、昭和天皇の(戦争)責任の問題を検討した歴史学者のハーバート・ビックスは「南京『レイプ』の命令はなかった」と言う。「しかし、捕虜を取るなという内務規定は存在した」
ビックスによれば、町に残った22人の欧米人がぞっとしながら見ている前で、日本軍は「前代未聞にして無計画の放火、略奪、殺人、強姦の狂騒を続けた」という。
中島今朝吾中将麾下の第16師団は最初の1日で敗残兵と捕虜、約3万2300人を虐殺した。第9師団もこれに加わり、12月17日に中国人の少年・成年男性1万7000人を摘出し、処刑している。流血は3ヶ月間続いた。
映画では、外国人たちが犠牲者を救おうと奮闘する姿が描かれる。彼らは個人としての勇気と植民地時代に白人がもっていた声望だけを頼りに、国際安全区を設置した。
アジア石油会社に勤めるイギリス人P・H・マンロ=フォーレも自らの命を賭けて、暴れ回る兵士に立ち向かった1人。
彼ら(欧米人)の中には「善きナチ」といわれるドイツ人実業家ジョン・ラーベもいる。彼が残した証言を劇中、ユルゲン・プロフノウが朗読する。ハレルソンが米国人外科医ボブ・ウィルソンの言葉を朗読し、ヘミングウェイがアメリカ人の宣教師で教師のミニー・ヴォートリンを演じる。
戦後の東京裁判では、一般市民と捕虜20万人が南京で殺害されたとする数字が採用された。
連合国により前線の総司令官だった松井石根大将が絞首刑に処された。後の資料は、松井が部下に軍規回復を命じ、虐殺を止めようとしたことを示している。一部の人々は彼に下された有罪判決を誤審と見ている。
対照的に、南京で上官だった朝香宮は裁判にかけられることなく、大虐殺を否定した。彼は戦後、日本ゴルフ界の名士となった。
このような否定の歴史が中国の若者世代を刺激し続け、日本の世論を守勢に立たせている。先週の木曜日(6月28日)に日本の札幌高等裁判所が明らかにしたように、傷口はまだ開いたままである。
同裁判所は、戦中に北海道で強いられた鉱山および建設労働に対する補償を求める中国人42人の訴えを斥けた。裁判所は1972年の日中共同声明を引用して、中国は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」ことを宣言したとする。
南京の映画を見て劇場を出た中国人観客が、そうした外交上の細かな問題について考えることはないだろう。
冒頭、「あるアメリカの新作映画が今週、中国で公開されれば」と言っているのは、2007年7月3日に開かれた映画「南京」の北京プレミアに触れていると考えられます。 このことと、末尾に札幌高等裁判所の判決が出てくることが、記事の正しい日付を7月とする根拠です。ちなみに、北京でのプレミア上映会に関しては、Hollywood Reporterの報道が7月3日付であり、すでにこのブログでも取り上げています。
さて、ブログ本来の関心事である「南京の真実」に関する部分では、「おそらく映画は事件を、残念ながらいき過ぎもあったものの、対テロリスト作戦として描くものになるだろう」と映画の内容を予想しているところが興味深いです。
ほかに目立つのが、「中島今朝吾中将麾下の第16師団」などと新聞記事には例がないほど詳しく事件の細部に触れている点です。加えて、ハーバート・ビックスというピューリッツァー賞を受けたこともある歴史学者を登場させることで、読者が記事の内容に信用を置くようになっています。もっとも、南京攻略当時、陸軍中将だった朝香宮鳩彦の方が大将の松井石根よりも「上官」だったとするかのような書き方には誤解があると思われます。また、朝香宮が戦後、「大虐殺を否定した」と書かれていますが、これが何にもとづくのかも判然としません。こうした問題がビックス教授によるものかどうかは、記事を読む限りでは分かりません。
「南京の真実」との関連でもう1つ興味深いのは、 「後の資料は、松井が部下に軍規回復を命じ、虐殺を止めようとしたことを示している。一部の人々は彼に下された有罪判決を誤審と見ている」というように、松井に対して同情を示しているとも取れる書き方をしていることです。少なくとも、この点に限っていえば、「南京の真実」とも近い立場にあるといえるでしょう。しかし、この記事が松井に一定の同情を示す背景には、皇族の戦争責任に対する厳しいまなざしがあり、いってみれば、皇族の罪をかぶせられた犠牲者として松井を見ているというわけです。そうした皇族断罪論が「南京の真実」の主張と相容れるはずがないことは、言うまでもないでしょう。このように天皇を含む皇族の戦争責任を追及する態度は、イギリスの世論を反映したものと思われます。