2007/11/28

日本の南京映画、戦犯を殉難者と呼ぶ(Reuters 07/11/26)

今月初めに「南京の真実」第1部試写会の告知があったにもかかわらず、この映画を正面から取り上げた報道が依然ないということを、先週の投稿で書きました。しかし、一昨日、ついに「南京の真実」を正面から取り上げた記事をReutersが発表しました。

http://www.reuters.com/article/entertainmentNews/idUST30723520071126?sp=true

同社の日本語版サイトで検索したところ、該当する記事は見付かりませんでした(検索に問題があるだけで、記事の日本語版が発表されている可能性は否定しきれませんが)。 代わりに「南京大虐殺に異論を唱える映画『南京の真実』」と題する、撮影現場を取材した動画を見ることができます。内容はReutersの英語版サイトで公開されているものとまったく同じで、ナレーションも英語です。

http://jp.reuters.com/news/video?videoId=71471

動画はさておき、できるだけ多くの人が記事の内容を知ることができるよう、いつものように記事全文の試訳を掲載します。

戦犯として絞首刑となった日本の戦時中の指導者たちはイエス・キリストのような殉難者だった、と完成予定の映画を制作する日本人監督が述べた。ナショナリストの支援を受ける、この映画は、1937年の南京大虐殺を中国による捏造と主張する。

水島総の「南京の真実」は、日本による、この都市
(南京)の攻略と占領を扱った数々の映画の中で、最新のものである。この出来事は、死傷者数をめぐる諸説の著しい違いから、70年間、日中関係の問題の種となってきた。

石原慎太郎東京都知事をはじめとする日本のナショナリスト著名人の支援を受け、一部は寄付金により資金をまかなう、この映画は、ドキュメンタリー部分と、連合国の裁判で有罪となり、戦犯として絞首刑に処された日本の指導者たちの最期の24時間を描くフィクション部分とで構成される予定である。

「彼らは、世の罪を背負うために十字架につけられたイエス・キリストに似ている。かつての日本の良い部分と悪い部分のすべてを背負って死に、絞首台に進んでいった」と水島はReutersに語った。

「私の映画は、真の日本人というもの、そして、彼らがどのように死と向き合うかを描く映画だ。ある意味で、彼らは最後の『七人の侍』だ。」無力な農民を守るため、侍の一団が盗賊と戦う日本の黒澤明監督の名作に触れながら、そう付け加えた。7人の日本人が戦犯として絞首刑に処された。

来春公開予定の水島の映画を中国政府は非難している。しかし、監督によると、自分の調査によって、30万人が死亡したとする北京の言い分は、誤りであることが証明されたという。

「中国政府の立場は今や『大虐殺があったと認めることを条件に、取引をしよう』というものだ。しかし、すべてが嘘で、政治的に動機付けられた嘘を受け容れない以上、それに応じることはしない」と語る。

他の映画はプロパガンダ

第2次世界大戦後の連合国による裁判では、国民党政権下の中国の首都、南京を日本人が占領した際に、一般市民および捕虜14万2000人が殺害されたと推定された。

日本は、侵攻した日本軍により多数の一般市民が殺害されたことを認めながらも、いかなる推計も示していない。

水島は、中国が世界政治で優位に立つために、死傷者数をでっち上げたと主張する。さらに、当時、南京にいた欧米人を共産党の「スパイ」として、彼らによる目撃証言も信用しない。

南京
(事件)をめぐって、この都市の占領から70周年にあたる今年は、7本の映画の製作が予定されている。その中には、南京(事件)を取り上げたアイリス・チャンのベストセラーにもとづく中国の映画も含まれる。水島はこれらの映画の大半を「プロパガンダ」と呼ぶ。

「中国人が世界に売り込もうとしている、自分たちがどのように日本の軍国主義の犠牲になったか、どのように家族や自由を守るために闘ったかを描く映画と同じように、声高に薄っぺらなヒューマニズムを叫ぶ、そんなものを作る気はない」と水島は言う。

戦後の日中関係は、北京
(中国政府)がいう、戦時中に日本兵が働いた残虐行為を認めようとしない東京(日本政府)側の態度によって、損なわれてきた。

日本の小泉純一郎元首相の在任中に関係は冷え込んだ。数百万人の日本の戦死者とともに有罪となった戦犯をまつる東京の神社に、彼が毎年、参拝したことが主な原因である。

小泉は2006年9月に退陣し、後任者が関係修復にこぎ着けた。

後任者らの努力の一環として、日中の歴史学者が両国間の歴史観の隔たりをせばめるために、共同で研究に当たっている。

水島監督の言い分がかなり詳しく紹介されている記事になっています。 しかし、その主張をそのまま書くだけでなく、日本政府も多数の一般市民が日本軍に殺害されたことを認めているといった、監督の意見に反する現実も併せて指摘しています。

記事の最後に小泉元首相時代からの日中関係の変遷が簡単に記されています。この枠組みの中で見ると、「南京の真実」は、中国との関係改善に努める日本政府の動きに逆行するものという位置付けになるでしょう。

記事の中での「南京の真実」の説明を読んでいると、この映画が3部作になるということが書かれていません。 製作側がそうした説明をしなかったのか、それとも、説明を受けたものの、Reuters側で省いたのか、どちらかは分かりません。 もっとも、仮に3部作の第1部という説明をまったく受けずに、南京事件から10年以上後のA級戦犯(この事件と無関係な者を含む)の処刑を再現する映画だといわれたら、取材に訪れた記者は当然、どこが南京映画なのかと不審に思うはずですが。

映画は「ドキュメンタリー部分」と「フィクション部分」からなると書かれています。 日本語で「フィクション」というと、つい純粋な虚構という意味に取られがちですが、英語では必ずしもそうでなく、事実と虚構を組み合わせたものという意味合いも持っています。

他の映画はプロパガンダ」という小見出しの付いた後半部分に、南京事件を題材とする「7本の映画の製作が予定されている」と書かれていますが、それらの題名は書かれていません。 ただし、 「アイリス・チャンのベストセラーにもとづく中国の映画」は明らかにサイモン・ウェスト監督の中・米・英合作映画「紫金山」を指しています。このブログで以前、紹介した8月21日付のReutersの記事は、ほかに次の4本の映画を取り上げています。(1)テッド・レオンシス制作のドキュメンタリー「南京」(ビル・グッテンタグ、ダン・スターマン監督)、(2)香港で製作予定の「南京・クリスマス・1937」(中国語名「南京聖誕:1937」、イム・ホー監督)、(3)前回、紹介したAsian Pacific Postの記事が話題にしていたカナダ製作の「アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京」(ビル・スパヒック、アン・ピック監督)、(4)陸川(ルー・チューアン)監督の中国映画「南京!南京!」。 さらに、先月には独・仏・中合作映画「ジョン・ラーベ」(フローリアン・ガレンベルガー監督)が中国で撮影を開始したそうです。これらに「南京の真実」を加えると、7本。それらの映画の「すべて」でなく、「大半」を水島監督は「プロパガンダ」と見なすわけですが、「プロパガンダ」でない例外は自分の映画以外にあるのでしょうか。

2007/11/20

ザ・レイプ・オブ・南京(Asian Pacific Post 07/11/16)

11月に入り、「南京の真実」公式サイトで告知がありました。 それによると、映画は3部作になり、その第1部「七人の『死刑囚』」の試写会が12月14日に開かれるとのことです。第1部は、A級戦犯として東京裁判で絞首刑の判決を受けた松井石根ら7人の最期を描くものになるようです。ちなみに、日米タイムズ(Nichi Bei Times)の記事に載っていた、アメリカの女優とプロデューサーがアイリス・チャンの自殺の謎を追ううち、南京大虐殺の虚偽を確信するという物語は(細部はその後、変更を加えられているかもしれませんが)、「日本文化チャンネル桜」の番組内での水島監督の説明によると、第3部として実現させるそうです。

さて、そのような発表にもかかわらず、この映画を正面から取り上げた報道が見られない状況が依然として続いています。もっとも、本題に据えているわけではないものの、この映画の話に少しだけ触れている記事が先週、カナダのAsian Pacific Post紙に掲載されたようなので、今日はその記事を取り上げることにします。

http://www.asianpacificpost.com/portal2/ff808081164a95aa01164ac46b7b000a_The_Rape_of_Nanking.do.html

同紙の発表によると、購読者は16万人、ブリティッシュコロンビア州で発行されているアジア関係の報道を専門とする英字紙の中では、主要なものになるそうです。

オリヴィア・チェンは執念を理解している。

これこそが、新作のドキュメンタリー・ドラマの題名となった役を勝ち取るよう、この女優を突き動かしたものである。映画は、中国系アメリカ人作家アイリス・チャンの生涯と、2004年にサンフランシスコ湾近くの人けのない田舎道で彼女が遂げた自殺を取り扱う。

執念はまた、チャンに『
ザ・レイプ・オブ・南京 第2次世界大戦の忘れられたホロコースト』を書くよう駆り立てた。チャンのこの本は、日中戦争中の1937年に日本軍の手で30万人に上る中国人が殺害された大虐殺について詳しく記した、英語では最初の書だった。発売後ただちにNew York Timesのベストセラー・リストに入り、多くの人々の――誰にもまして著者自身の――人生を変えることになった。

「演じてみたい夢の役があったとすれば、アイリス・チャン」エドモントン生まれのチェンはそう言う。彼女は最近、エミー賞を受賞したミニシリーズ「ブロークン・トレイル 遙かなる旅路」でロバート・デュヴァルと共演した。

3年前、チェンは映画脚本の素材を求めて、あの比類なき本を手に取った。物語に圧倒され、若い中国系アメリカ人の著者に大いに興味を感じながら、チェンは著者の足跡をたどろうとした。

そのとき、彼女はこの作家の死について知った。

「私はすっかり感謝の気持ちに満ち、この英雄的な人物に夢中になっていたのに、自分が彼女にもう会うことはないと知って、打ちひしがれることになった」かつてグローバルTVとEdmonton Journalでニュースレポーターを務め、今はヴァンクーヴァーに住むチェンは、語る。

「作品にここまで多くのことを盛り込み、自ら命を絶った、この女性はいったい何者だったのか?」

アイリス・チャンについて知り得る限りのことを知ろうとする執念に駆られ、チェンは作家の生前の夫ブレットン・ダグラスのもとに電話をかけた。

5才になる夫妻の息子クリストファーを育てるダグラスは、亡き妻の物語を尋ねて接触してくる映画人にいつも言っているのと同じことを、チェンに言った――彼女の職場で彼女のことをよく調べ、彼女がインタビューをした相手と話し、それでもまだ興味があったら、再び電話をしなさい、と。

この指示をチェンはそのまま実行した。そして、それまでに増して熱心に物語を追い求めようと、彼
(ダグラス)に再び連絡を取った。

昼食の間じゅう、ダグラスは妻の私生活での顔について女優
(チェン)に話して聞かせた。

自分が知ったことを振り返り、チェンはこう語る。「アイリスは勇敢だった。恐れや疑いにめげずに行動する人だった。傷つきやすく、怖がりで、疑いや夢に悩まされながらも、切り抜けるまで突き進んだ」

トロントを拠点とするリアル・トゥ・リール・プロダクションズが「
アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京」の出演者を募集しているという情報が発表されると、チェンは、自分がこの役を引き受けなければならないと確信した。

「オリヴィアから電話がかかってきて、『
(主演者)探しはやめてください。私が彼女です。私があなたがたのアイリス・チャンです』と言われた」「アイリス・チャン」のプロデューサー、共同監督のアン・ピックは、そう振り返る。彼女は、賞賛を集めるホットドックス映画祭の創立以来の委員である。「彼女のeメールに鳥肌が立った。それほど彼女にはアイリスと強いつながりがあった」

南京、日本、カナダで撮影された、この作品は、中国に渡り、大虐殺が生存者の心に残した衝撃と向き合うようになるチャンの姿を通して、彼女の旅の意味が理解できるようになっている。

大虐殺から70周年、そして、アイリス・チャンの著書の出版から10周年に当たる今年、この主題で製作される映画は本作のみではない。今年初め、ウディ・ハレルソンがAOLの「
南京」に主演した。この映画は、(日本軍の)侵攻中も中国に残り、数十万人の人命を救った一団の欧米人を取り上げる。大虐殺に関しては、中国、フランス、ハリウッド向けの企画が複数、立てられている。日本人映画監督が、チャンの著書の主張に反駁する映画を計画してもいる。

アイリス・チャンの自殺により多くの疑問が解決されないまま残ったが――例えば、なぜ彼女は晩年、自分の生命が危険にさらされていると感じていたのか――、それらの疑問によって、この作家が成し遂げた功績が覆い隠されないことを、オリヴィア・チェンは願っている。

「人々に、私がそうだったように、アイリスに触発され、自分がしなければならないことをやりぬく勇気の源として、彼女を役立ててほしい。私たちは立ち上がり、こんなことを2度と起こさせないと言わなければならない」とチェンは言う。

アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京」は、ヴァンクーヴァーのリッジ・シアターで11月15、17、22、25日にALPHA(Association for Learning and Preserving the History of WWII in Asia)ヴァンクーヴァー支部の共催で上映される。詳細は、http://www.irischangthemovie.com/を参照。

記事の本題は、映画「アイリス・チャン ザ・レイプ・オブ・南京」の紹介です。 この映画は以前、「忘れられなかった女性 アイリス・チャン物語」という題名で、3月のTimeの記事で取り上げられていたものです。 それがついに完成し、カナダで公開されたというわけです。

半ば勝手にアイリス・チャンの純粋な伝記映画として、南京事件も単なる一こまとして取り上げられるだけだと思っていたのですが、公表された副題を見て分かるとおり、『ザ・レイプ・オブ・南京』執筆に重点を置いた映画になったようです。 記事の最後に書かれている上映予定から見て、それほど大々的に公開されるわけではなさそうです。

さて、「南京の真実」について書いているのは、南京事件70周年に当たり製作される映画がほかにもあるという文脈の中でのことです。 アイリス・チャンのことが主題になっている記事だけに、この映画は「チャンの著書の主張に反駁する映画」とされています。冒頭でも触れたとおり、水島監督はチャンの著書の背後に中国の情報工作を見る映画を準備しているらしいことから、この表現はある程度、実態を言い当てているといえるかもしれません。 もっとも、記事を書いた記者にそこまでの自覚があったとは思いませんが。

2007/09/30

日中が外交関係修復(Los Angeles Times 07/02/17)

依然として「南京の真実」関係の報道がない状態が続いているので、今日は、さかのぼって2月17日付のLos Angeles Times紙の記事を紹介します。

http://www.latimes.com/news/printedition/asection/la-fg-chijapan17feb17,1,2739041.story?coll=la-news-a_section&ctrack=2&cset=true

上のリンクで記事本文が閲覧できない場合は、下のリンクからTaiwan Security Researchというサイトで公開されている記事のコピーをご覧ください。

http://taiwansecurity.org/News/2007/LAT-170207.htm
日中がその波乱含みの関係を軌道に戻そうと懸命に努力しているしるしを求めるならば、次の事実に注目すべきである。4年間の禁止を経て、中国人が再び日本米を食べることに同意したのである。

中国は2003年に日本からの米の輸入を止めた。表向きは、北京が積荷の中に害虫を見付けたからだとされる。しかし、この措置には保健上の問題というより政治的な気配が感じられた。やがて、アジアの2大国は互いに相手に対する批判を強めていき、中国諸都市での反日暴動の発生や日本でのナショナリズム的な主張の加熱といった形で、政治関係を緊張させることになる。

ところが、その間にも新しい関係が両国を結び付けていた。急成長を遂げる中国経済が、15年間、脱け出せなかった不況から日本を解放した。中国人は、汚染された大気や有毒水の浄化のためには日本の技術に期待するのが最善だということを認識した。

そして、政治家が会見を拒んでいる間にも、日中の消費者は相手の国の書籍や映画やゲーム、歌謡曲に愛着を感じるようになっていった。

互いに依存する国家を率いているという認識を前に今、日中の政治家は対話を再開している。中国の李肇星外相は4月の温家宝首相訪日の準備のため、今週
(2月15-17日)、東京を訪れた。温首相の訪日は、就任後間もない日本の安倍晋三首相による昨年10月の表敬訪問に対する返礼に当たり、2000年以降で最も重要な人物の訪問になる。

日中の角逐に警戒を募らせる他のアジア諸国にとって、これは吉報である。中国が兵力を増強すれば、日本がワシントンによる迎撃ミサイル防衛を容認して応じるといったように、北京と東京は互いに軍事力を拡張している。また、両国は、日台の非公式の親交をはじめ、領有権を争う海域の底に眠るエネルギー資源をめぐる緊張、両国の過去1世紀の流血の歴史から未だに癒えない感情的な傷といった、いつ紛争の火種になるとも知れない数々の反目を抱えている。

しかし、今、中国の交渉相手との関係がこれほど友好的な時期はなかったと日本の外交官は言う。会見に臨んだ政治家の言葉を伝える報道によると、李は今週、日本の会談相手を前に穏当な意見を示した。北京が人工衛星を破壊する力をもつことを示した最近のミサイル実験に対する日本の懸念に答えて、中国は常に友好を意図してきた、と李は述べる。さらに、1970年代から80年代に行われた日本人の拉致に関して、北朝鮮から回答を得ようとする東京の決定に共感を示した。

一方、安倍は金曜日
(2月16日)の会見を終えて、新しい協調の精神を賛美した。

好機を捉える

この良好な雰囲気はおそらく、日本の小泉純一郎首相が
(2006年)9月に退陣したことによって、可能になったのであろう。その在職中に両国関係は悪化し、中国首脳は国際会議の合間にさえ彼に会うことを拒むほどだった。小泉は靖国神社を訪れることで、北京の首脳の怒りを買った。同社は議論を呼んでいる神道系の日本の戦死者追悼施設で、第2次世界大戦の戦犯も追悼している。

中国人は
(靖国)参拝を、中国各地の侵略をはじめとする日本軍国主義の歴史に対する責任を否定しようとする動きと受け取った。2005年4月には、戦争中の残虐行為の言い逃れをする新しい日本の歴史教科書に対する憤慨から、上海や北京で日本の資産を狙った暴動や攻撃が巻き起こった。

他方、日本の政治家は、中国国内の問題から目をそらせるために民衆の怒りを煽っているとして、北京を非難した。

しかし、靖国訪問の中止を求める中国の要求を小泉が無視する間も、日本の経営者たちは冷静に東京
(日本政府)に対して、強硬路線の外交が活況を呈する中国市場での営業の可能性を脅かしていることに注意を促した。多くの日本の繊維業や製造業の企業は人件費の安い中国へ移転しており、中国は米国を押さえて日本の最大の貿易相手国になった。

そうして、双方は小泉の退陣によって到来した機会をすばやく捉えて、ともかく公的には友好的な外交関係を表明したのである。中国は、国内発展と多くの社会問題に集中するために、今後数十年間、対外政策の安定(ないし、それに近い状態)が不可欠であるとする戦略的な決定に達した。

「将来、東アジアは経済統合に向かう。日中の協力抜きに真の統合はありえない」と北京の
(中国)人民大学の黄大慧教授(国際関係論)は言う。

漸進

北京はまだことを早急に運び過ぎないよう警戒している。このことは、今年、胡錦濤国家主席でなく、温を訪日させて、正常化へ向け部分的にしか歩み出していないことから、読み取ることができる。

反日デモが示したように、中国人一般大衆は政府の政策決定にとって、ますます重要な要因となっている。中国の指導者たちは今や、政策転換を押し付けるのでなく、それを説明し、理解を求める立場に立たされている。

「技術が目まぐるしく進歩するにつれ、通信が迅速になった。その結果、ときには大衆の方が政府よりも早く外交問題について知る場合も出てくる。ますます政府は世論を無視できなくなっている」と黄は言う。

このことは、日中の歴史に関する感情的な問題に最もよく当てはまる。今年は中国人が特に敏感になる年である。南京レイプ70周年を迎えるからである。この事件で日本軍は何万人もの一般市民を強姦し、虐殺したといわれる。中国人歴史家は死亡者数を30万人としている。多くの日本の政治家や学者は、この数字を過大なものとして斥ける。

せめぎ合う歴史

中国では、日本の占領に対する抵抗は共産党公認の歴史の一部である。北京は6000万ドルをかけて南京大虐殺記念館を3倍の広さに拡張している。また、中国東北部の哈爾浜(ハルビン)郊外では、日本の細菌戦部隊跡地に記念公園を建設するために、大規模な緊急調査が計画されている。およそ23棟の建物跡が第2次大戦中の日本の731部隊の本部跡として保存される予定である。同部隊は捕虜を使って生物化学実験を行った。

これらの動きは、戦争が深い傷跡を残していること、そして、その傷跡が善意の外交さえも脇に押しやってしまう力をもっていることを示している。懐疑的な人々は、顕在化したばかりの
(日中)関係の雪解けは長続きしないと主張するが、そこには彼らなりの根拠がある。それは南京大虐殺をめぐって、せめぎ合う映画である。

中国の映画製作者たちは、アメリカ人作家、故アイリス・チャンのベストセラーをもとに、南京での日本人の残虐行為を扱った映画の公開を計画している。

1月に、日本の映画監督で、ナショナリストの水島総が「
南京の真実」を製作すると発表。彼によると、日本人が残虐行為を働いたという主張は、政治プロパガンダであることを暴く映画になるという。

「歴史を正し、正しいことを伝えることが大事だ」と水島は言う。

中国の李肇星外相が訪日したのを機に書かれた記事ですが、その後、中国外相は交代。日本側も安倍首相が辞任しており、記事が書かれてから今日までに経った7ヶ月という時間を感じさせます。

南京の真実」の話題は記事の最後で取り上げられています。記事全体の大まかな流れは、前半で小泉首相辞任により日中に友好ムードが到来していると述べ、後半で日中戦争をめぐる両国間の認識の差がこの和解を妨げかねないことを指摘する、というものになっています。そして、その日中間の歴史認識のずれを示す実例として、この映画が取り上げられるわけです。映画の趣旨は、南京で「日本人が残虐行為を働いたという主張は、政治プロパガンダであることを暴く」ことだと説明されています。ただし、それに対する記者自身の評価は記されていません。

南京事件の犠牲者数については諸説あり、記事の中でこれに触れる際、各紙の記者は彼らなりに気を遣っているようです。ここでは、「中国人歴史家は死亡者数を30万人としている。多くの日本の政治家や学者は、この数字を過大なものとして斥ける」と書かれています。確かに、死亡者数を「30万人」とする政治家や学者は、日本にはほとんどいないでしょう。しかし、だからといって、例えば、1-2万人ほどの殺害はあったとする政治家と、10万人以上の虐殺があったとする学者を一まとめにして、「多くの日本の政治家や学者」とするのは、少し雑に過ぎるのではないかと思います。

ちなみに、記事の中で触れられている、中国で計画される「故アイリス・チャンのベストセラーをもとに」した映画は、中・米・英合作の「紫金山」(中国語名「南京浩劫」、監督は米国のサイモン・ウェスト)のことを指していると思われます。