依然として「南京の真実」関係の報道がない状態が続いているので、今日は、さかのぼって2月17日付のLos Angeles Times紙の記事を紹介します。
http://www.latimes.com/news/printedition/asection/la-fg-chijapan17feb17,1,2739041.story?coll=la-news-a_section&ctrack=2&cset=true上のリンクで記事本文が閲覧できない場合は、下のリンクからTaiwan Security Researchというサイトで公開されている記事のコピーをご覧ください。
http://taiwansecurity.org/News/2007/LAT-170207.htm日中がその波乱含みの関係を軌道に戻そうと懸命に努力しているしるしを求めるならば、次の事実に注目すべきである。4年間の禁止を経て、中国人が再び日本米を食べることに同意したのである。
中国は2003年に日本からの米の輸入を止めた。表向きは、北京が積荷の中に害虫を見付けたからだとされる。しかし、この措置には保健上の問題というより政治的な気配が感じられた。やがて、アジアの2大国は互いに相手に対する批判を強めていき、中国諸都市での反日暴動の発生や日本でのナショナリズム的な主張の加熱といった形で、政治関係を緊張させることになる。
ところが、その間にも新しい関係が両国を結び付けていた。急成長を遂げる中国経済が、15年間、脱け出せなかった不況から日本を解放した。中国人は、汚染された大気や有毒水の浄化のためには日本の技術に期待するのが最善だということを認識した。
そして、政治家が会見を拒んでいる間にも、日中の消費者は相手の国の書籍や映画やゲーム、歌謡曲に愛着を感じるようになっていった。
互いに依存する国家を率いているという認識を前に今、日中の政治家は対話を再開している。中国の李肇星外相は4月の温家宝首相訪日の準備のため、今週(2月15-17日)、東京を訪れた。温首相の訪日は、就任後間もない日本の安倍晋三首相による昨年10月の表敬訪問に対する返礼に当たり、2000年以降で最も重要な人物の訪問になる。
日中の角逐に警戒を募らせる他のアジア諸国にとって、これは吉報である。中国が兵力を増強すれば、日本がワシントンによる迎撃ミサイル防衛を容認して応じるといったように、北京と東京は互いに軍事力を拡張している。また、両国は、日台の非公式の親交をはじめ、領有権を争う海域の底に眠るエネルギー資源をめぐる緊張、両国の過去1世紀の流血の歴史から未だに癒えない感情的な傷といった、いつ紛争の火種になるとも知れない数々の反目を抱えている。
しかし、今、中国の交渉相手との関係がこれほど友好的な時期はなかったと日本の外交官は言う。会見に臨んだ政治家の言葉を伝える報道によると、李は今週、日本の会談相手を前に穏当な意見を示した。北京が人工衛星を破壊する力をもつことを示した最近のミサイル実験に対する日本の懸念に答えて、中国は常に友好を意図してきた、と李は述べる。さらに、1970年代から80年代に行われた日本人の拉致に関して、北朝鮮から回答を得ようとする東京の決定に共感を示した。
一方、安倍は金曜日(2月16日)の会見を終えて、新しい協調の精神を賛美した。
好機を捉える
この良好な雰囲気はおそらく、日本の小泉純一郎首相が(2006年)9月に退陣したことによって、可能になったのであろう。その在職中に両国関係は悪化し、中国首脳は国際会議の合間にさえ彼に会うことを拒むほどだった。小泉は靖国神社を訪れることで、北京の首脳の怒りを買った。同社は議論を呼んでいる神道系の日本の戦死者追悼施設で、第2次世界大戦の戦犯も追悼している。
中国人は(靖国)参拝を、中国各地の侵略をはじめとする日本軍国主義の歴史に対する責任を否定しようとする動きと受け取った。2005年4月には、戦争中の残虐行為の言い逃れをする新しい日本の歴史教科書に対する憤慨から、上海や北京で日本の資産を狙った暴動や攻撃が巻き起こった。
他方、日本の政治家は、中国国内の問題から目をそらせるために民衆の怒りを煽っているとして、北京を非難した。
しかし、靖国訪問の中止を求める中国の要求を小泉が無視する間も、日本の経営者たちは冷静に東京(日本政府)に対して、強硬路線の外交が活況を呈する中国市場での営業の可能性を脅かしていることに注意を促した。多くの日本の繊維業や製造業の企業は人件費の安い中国へ移転しており、中国は米国を押さえて日本の最大の貿易相手国になった。
そうして、双方は小泉の退陣によって到来した機会をすばやく捉えて、ともかく公的には友好的な外交関係を表明したのである。中国は、国内発展と多くの社会問題に集中するために、今後数十年間、対外政策の安定(ないし、それに近い状態)が不可欠であるとする戦略的な決定に達した。
「将来、東アジアは経済統合に向かう。日中の協力抜きに真の統合はありえない」と北京の(中国)人民大学の黄大慧教授(国際関係論)は言う。
漸進
北京はまだことを早急に運び過ぎないよう警戒している。このことは、今年、胡錦濤国家主席でなく、温を訪日させて、正常化へ向け部分的にしか歩み出していないことから、読み取ることができる。
反日デモが示したように、中国人一般大衆は政府の政策決定にとって、ますます重要な要因となっている。中国の指導者たちは今や、政策転換を押し付けるのでなく、それを説明し、理解を求める立場に立たされている。
「技術が目まぐるしく進歩するにつれ、通信が迅速になった。その結果、ときには大衆の方が政府よりも早く外交問題について知る場合も出てくる。ますます政府は世論を無視できなくなっている」と黄は言う。
このことは、日中の歴史に関する感情的な問題に最もよく当てはまる。今年は中国人が特に敏感になる年である。南京レイプ70周年を迎えるからである。この事件で日本軍は何万人もの一般市民を強姦し、虐殺したといわれる。中国人歴史家は死亡者数を30万人としている。多くの日本の政治家や学者は、この数字を過大なものとして斥ける。
せめぎ合う歴史
中国では、日本の占領に対する抵抗は共産党公認の歴史の一部である。北京は6000万ドルをかけて南京大虐殺記念館を3倍の広さに拡張している。また、中国東北部の哈爾浜(ハルビン)郊外では、日本の細菌戦部隊跡地に記念公園を建設するために、大規模な緊急調査が計画されている。およそ23棟の建物跡が第2次大戦中の日本の731部隊の本部跡として保存される予定である。同部隊は捕虜を使って生物化学実験を行った。
これらの動きは、戦争が深い傷跡を残していること、そして、その傷跡が善意の外交さえも脇に押しやってしまう力をもっていることを示している。懐疑的な人々は、顕在化したばかりの(日中)関係の雪解けは長続きしないと主張するが、そこには彼らなりの根拠がある。それは南京大虐殺をめぐって、せめぎ合う映画である。
中国の映画製作者たちは、アメリカ人作家、故アイリス・チャンのベストセラーをもとに、南京での日本人の残虐行為を扱った映画の公開を計画している。
1月に、日本の映画監督で、ナショナリストの水島総が「南京の真実」を製作すると発表。彼によると、日本人が残虐行為を働いたという主張は、政治プロパガンダであることを暴く映画になるという。
「歴史を正し、正しいことを伝えることが大事だ」と水島は言う。
中国の李肇星外相が訪日したのを機に書かれた記事ですが、その後、中国外相は交代。日本側も安倍首相が辞任しており、記事が書かれてから今日までに経った7ヶ月という時間を感じさせます。
「南京の真実」の話題は記事の最後で取り上げられています。記事全体の大まかな流れは、前半で小泉首相辞任により日中に友好ムードが到来していると述べ、後半で日中戦争をめぐる両国間の認識の差がこの和解を妨げかねないことを指摘する、というものになっています。そして、その日中間の歴史認識のずれを示す実例として、この映画が取り上げられるわけです。映画の趣旨は、南京で「日本人が残虐行為を働いたという主張は、政治プロパガンダであることを暴く」ことだと説明されています。ただし、それに対する記者自身の評価は記されていません。
南京事件の犠牲者数については諸説あり、記事の中でこれに触れる際、各紙の記者は彼らなりに気を遣っているようです。ここでは、「中国人歴史家は死亡者数を30万人としている。多くの日本の政治家や学者は、この数字を過大なものとして斥ける」と書かれています。確かに、死亡者数を「30万人」とする政治家や学者は、日本にはほとんどいないでしょう。しかし、だからといって、例えば、1-2万人ほどの殺害はあったとする政治家と、10万人以上の虐殺があったとする学者を一まとめにして、「多くの日本の政治家や学者」とするのは、少し雑に過ぎるのではないかと思います。
ちなみに、記事の中で触れられている、中国で計画される「故アイリス・チャンのベストセラーをもとに」した映画は、中・米・英合作の「紫金山」(中国語名「南京浩劫」、監督は米国のサイモン・ウェスト)のことを指していると思われます。